産後うつ体験記~なぜ母親たちは死を選ばなければならなかったのか~

2018年9月24日

子どもは贅沢品といわれる昨今。(子どもはモノではありませんが…)

そんな贅沢品とも言われる存在を手に入れた母親は幸せの絶頂にいると周りに思われていることでしょう。

しかし、その裏で妊産婦の自殺が問題になっています。

そして彼女たちが抱えていた原因の1つに産後うつというものがあります。

今回は私の経験を交えて、この産後うつについてお話ししたいと思います。

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妊産婦の死因第一位は自殺

妊娠出産では体の状態が大きく変わります。

そのため妊産婦特有の病気もありますが、妊産婦の死因第一位は病死…ではなく自殺なんです。

日本産婦人科医会が東京23区を対象に妊産婦の自殺について調査で、10万に当たり8.3人の割合だったというものがあります。

あまりピンと来ないかもしれませんが、この8.3という数字は出血などによる妊産婦死亡率の約2倍です。

さらに、比較対象となっているイギリスやスイスの4倍弱、スウェーデンの2倍強の値となっており、日本の妊産婦の自殺率の高さを物語っています。

少子化ではありますが、日本では毎年100万人程の赤ちゃんが生まれていて、双子以上の場合もあるもののそれに近い数のお産をした妊産婦が毎年いるわけです。

この調査結果を全国規模に当てはめて考えてみると…どれだけの妊産婦が自害を選んでいるかと思うと胸が痛みます。

なぜ母親たちは自らを殺すのか

それにはそれぞれ個人の背景があるのはもちろんのことですが、その背景の結果でしょうか、亡くなった方々には精神疾患にかかっている方が散見されました。

亡くなった妊婦の4割、産後の女性の6割に精神疾患が確認されています。

精神疾患が未確認の方の中には受診を拒否していた事例も報告されており、実際はもっと多いことが予想されます。

なお、亡くなった産後の女性でわかっていた精神疾患のうち、最も割合が高かったのが「産後うつ」です。

私はさきほど妊産婦の死因1位として病死を否定しましたが、ある意味病気に殺されたのです。

産後うつとは

産後の女性のうち10人に1人がかかるうつ病の一種です。

私もかかった病気です。

症状の例としては以下が挙げられます。

・極度の悲しみ
・強い疲労感
・眠れないまたは過眠
・食欲の変化
・興味の薄れ
・母親として不適格と考える
・赤ちゃんが自分を愛していないと思うようになる
・子どもに対する過度な心配あるいは無関心
・不安
・自殺を考える
・幻聴などの精神病症状

発症の原因は一般的に言われるうつ病と同じようにまだ十分に解明されていません。

しかし、治療は可能です。

また、発見が早ければ早いほど回復も早い傾向にあります。

私個人の産後うつ経験

ここから私個人の経験についてお話したいと思います。

もし、私と同じと思う乳幼児をお持ちのお母さんがいたら、ぜひ産後うつに詳しいところへ相談してください。

どこかおかしいけど産後だからだと思っていた

私は産後3日目くらいから心の不調を感じていました。

些細なことに涙が出て、寝れるときに寝ようとしても寝れないし、食欲もありませんでした。

睡眠や食欲は周りが指摘するくらい足りていませんでした。

でもこれはマタニティーブルーだと思っていました。

病院からもらった冊子によれば、10日~2週間もあれば自然と良くなるとあったので、育児を一生懸命やっていればそのうち終わるものだと思っていたのです。

しかし、その良くなるはずの時期が来ても私の心の不調は良くなるばかりか悪くなる一方でした。

自分が根性なしだと思っていた

街を歩けばそれこそ数えきれない人が歩いていて、それは皆、子育てされた人たちです。

周りの友達も皆大変と言いながら立派に育てているんだから、私だって頑張ったらできると思っていました。

だから辛くて投げ出したい気持ちを持つのも私が甘えているからだと、私は自分自身の声を無視し続けていました。

子どもがかわいくない、怖い

女性は子どもが生まれたら子どもがかわいくてしかたなくなるものだと思っていました。

ところが私には子どもが可愛く感じられなかったのです。

母乳がうまくあげられなくて、泣かせてばかりで、泣き声が

「お前は母親のくせに満足に母乳も出せないのか!」

と言っているように聞こえました。

あるときは、母親は子どもがなんで泣いているか分かるときいていたのに私には全然分からなくて、

「違う!他の母親ならできるのになぜお前だけできないんだ!嫌いだ!あっちいけ!」

と罵られているように聞こえたのです。

可愛いどころか自分の子どもが怖いと感じました。

それでも母親は子どものことを可愛いと言わないといけないものと思っていたので、ずっと娘のことがかわいいと周りに嘘をついていました。

夫も実母も私が嘘をついていたことを知りません。

大きくなった娘がこんなことを知ったらとても傷つけると思います。

そんな感情を抱いていたことを今でも悔んで申し訳なく思っています。

発見は産後2週間の健診で

私が出産した病院では産後2週間で母親の健診を任意ですがしていました。

助産師の授乳講座もあると聞いて、授乳に自信がなかった私は受診することにしていました。

赤ちゃんが生まれて幸せかというような問診もありました。

私は思うまま丸を付けていったのですが、自分でも驚くほどネガティブな回答になりました。

また、木のイラストを描いたり、どんな意味があるのかよく分からない問診もありました。

その後、私だけ呼ばれて別室へ連れていかれました。

そこにいたのは精神科医でした。

少し話をして、私が産後うつにかかっている可能性が高いことを告げられます。

その時抱いたのは、この辛い気持ちの原因がはっきりしたことの安堵と、子育て中にうつになってる場合じゃないのにどうしたら…という不安でした。

私は今まで、荷物がもう入らないバッグに無理やり新しい荷物を詰め込むかのようにして自分の負の感情を押し込めてきました。

バッグもすごく重たくなっていてうまく運ぶことができません。

歩けません。フラフラでクタクタです。そんな状態でした。

精神科の先生はやはり専門家なだけあって聞き上手で、私のことを一切否定せず、負の感情を上手に外に出させてくれました。

先生がバッグの中身を軽くしてくれたので、育児という旅行を楽しむことができるようになったのです。

思えば自分で自分をたくさん縛っていた

母乳で育てないと、母親の私が育てないと、可愛いって思わないと、私は帝王切開でお産の痛みを知らずにきたから多少の辛さも我慢しないと、洗い物が終わってない、子育て日記つけないと…

もうあげたらきりがないです。

眠れなくなっていたのもあって、ある日の睡眠時間が30分なんてこともありました。

里帰り出産してるのに、実母に娘をお願いしたのはシャワーを浴びる15分だけでした。

里帰り中は家事のほとんどを実母にしてもらっていたので、私はすでに甘えているからこれ以上甘えるべきではないと思っていました。

生後1か月を過ぎて一緒にお風呂に入れるようになってからは、1分だって任せていませんでした。

夜の泣き声で人に迷惑をかけるべきではないと考えていたので、実家の防音室を借りて夜も1人で娘の面倒を見ていました。

それが良い母親だと思っていたのです。

少なくとも自分の手で育てられないのであれば母親失格だと思っていました。

私が回復するまで

私は産後うつにかかった人の中ではかなり早期に専門医に見つけてもらえたこともあってか、カウンセリングのみで回復することができました。

カウンセリングを受けてストレスが減ったおかげなのか、母乳の出がすごく良くなり、娘の生後3か月になる頃には夜通し寝てくれるようになりました。

私も自然と夜眠れるようになり、睡眠がとれるようになってくると、精神的にも回復するようになったのです。

娘のことが可愛いと感じるようになったのは、生後4か月頃からでした。

今はイヤイヤ期ですが、産後うつのときのような死にたくなるような辛さしかないということはありません。

赤ちゃんってこんなに可愛かったんだと気付くまでに時間を要しましたが、育児を楽しめる時が来るなんて考えてもいなかったので、本当に幸せです。

ただ贅沢を言うなら、産後うつにさえかかっていなければ、もっと楽しい産後になったのかな、娘のことを可愛く思えなかったうしろめたさを今も抱えることはなかったのかな、と思っています。

お母さんの周りの人はお母さんが産後うつになってないか気にしてみて

産後うつになっているときは本人はもしかしたらと思いつつも、自ら受診しない人もいます。

私も自分が何かおかしいと思いつつ、産後うつの存在も知っていたのに、自分が産後うつであることは考えていませんでした。

冒頭にあげたように、実際に自ら命を絶つくらいの方でも、診察を断る人もいます。

でも亡くなってからじゃ取り返しがつかないんです。

もし周りの産後のお母さんで様子がおかしいと思う人がいたら、地域の保健師さんや専門医に相談すると良いでしょう。

地域の保健師さんは「○○(お住いの市区町村) 保健センター」などで検索をかけたら連絡先が見つかると思います。

お母さん本人は自分の心の声に耳を傾けて

私の場合は出産直後、たくさんの「○○すべき」がありました。

休みたい、辛いという心の警告を無視して、「○○すべき」ばかり気にしていました。

私はそのおかげで本当はやりたかった楽しい育児から随分遠ざかってしまいました。

お母さんももし何か心に蓋をしているものがあるのなら、それはありのまま認めてあげてください。

そしてもし、辛さを抱えているのであれば、いったん辛さから離れて休んでほしいです。

周りの理解ある人がいれば少しだけ話してみてもいいし、授乳の1回をお願いして次の次の授乳の時まで寝るのも良いと思います。

自ら保健センターや専門医に電話したっていいです。

そしてもし、育児をお休みすることで母親としての影響が気になるのであれば、それは大丈夫だよとお伝えしたいです。

これからお子さんとはひとり立ちするまでこれから数十年も一緒に暮らすのですから、お母さんが赤ちゃんにとって重要な人であることに変わりはありません。

母は強しなんて言葉もありますが、無敵のサイボーグになったわけではありません。

ご飯を食べて睡眠をとって息抜きをしなければ人は病気になったり死んだりしてしまいます。

どうか無理なさらず、産後うつで苦しむことのないよう、ご自分を気にしてあげてください。